名無しの魔女

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「え?」 「握った手の感触も。貴方が言う温かみも。何も感じないわ」 「それってどういう……」  動揺を隠せないでいると、彼女は「昔話をしてあげる」と言って語り始めてくれた。 「昔、一人の女の子が居た。彼女は生れつき不思議な力が使えた。彼女はそれを魔法と名付け、発表した。それはすぐに全世界に広まり、彼女は瞬く間に有名になったわ」  一旦切り、続ける。 「そんなある日。彼女は国からきた使者に連れて行かれた。場所はとある地下室。そこで行われたのは研究と言う名の拷問。魔法を手に入れたいがための行動だったのかしらね。抵抗も出来ず、脳を弄られ、薬物を投与され、神経を侵され。その過程で彼女は五感のうちの二つを失ったわ」  聞いていられなかった。憤りと悲しみで顔が歪む。彼女は淡々と語る。 「そしてある時、彼女は必死にそこから逃げ出した。そうして同じ目に遭わないように、隠れてひっそりと生きてきたの」  話はこれで終わりよ、と彼女は静かに呟いた。涙が出そうになった。魔法が広まった理由が、こんなことだったなんて。気付けば彼女に訊ねていた。 「その女の子は、死のうと思わなかったのか?」 「何度も思ったわ。でも、死ねなかった。いくら自分の身体を傷つけても、そばから傷が治っていくの。どんな大怪我であろうとね」 「……それって……」 「おまけに老いる事もない。不老不死。人間ではなくなっていたのよ、彼女は」 「そう、か」  疑問は晴れたが、複雑な気持ちだった。魔法を生み出した、と彼女は言った。つまり彼女は、それだけの事があっても死ねずに百年以上も生きてきたのだ。そんな彼女は何の感情も見せず、ただ俺を見つめていた。
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