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そっと、彼女の左の頬に触れる。払いのけられるかと思ったけど、彼女は黙ったままだった。
「あんた、笑わないんだな」
「感情の出し方を忘れたわ」
「そうか」
すっと手を離す。彼女は静かに立ち上がって背を向けた。
「傷が治るまで居るといいわ。待ってる人がいるでしょうけれど」
「……ああ」
頷くと、彼女は台所へと足を運んでいく。何故だろう。少し、距離が縮まった気がした。
そういえば、彼女の話では五感のうち二つを失くしたと言っていた。
「昔の記憶を頼りに作ってみたのだけれど」
「…………下味い」
「そう」
以後、料理は俺が作ることにした。
◆ ◆ ◆
あれから三日。俺の傷はすっかり癒え、今は学園を目指し、森の出口を目指し、雪の中彼女の先導で進んでいる。
「もうすぐ出口よ」
「わかった」
特に何を話すでもなく、ただただ進む。気まずさはもうなかった。雪が俺の短い黒髪に落ちてきて冷たかった。彼女は服装も変わらず、漆黒のドレスを揺らして静かに歩く。そんな彼女を見つめ、俺も静かに着いて行った。不思議と魔物は出なかった。彼女のお陰のような気がした。
そしてそのまま歩き続け、彼女の足が止まった。見ればもう森を抜ける寸前だった。ここまで来れば学園まで辿り着ける。
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