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「これ…毒ですか?」
彼は椎茸に似たキノコを手に持って、地元のガイドに尋ねた。
「いんや、違う。けんども止めとけやぁ。煮ても焼いても食えねぇだけだからよぉ」
「不味いんですか?割と良い香りがしますよ?」
「いんや、美味ぇよ。でも止めとけやぁ」
ガイドは再三に止めたが、キノコから出る豊潤な香りに食欲は逆らえず、彼は捨てる振りをして黙って持ち帰った。
その夜、彼は夕飯のメインにあのキノコを網焼きしていた。焼くとさらに香りが強まり、醤油をかければ香ばしさもプラスされ、涎が止まらなくなっていた。食卓に並べ、皿に乗せたキノコに箸を付けると、あのガイドの言う通り味は格別に良く、恍惚に浸る程であった。彼は白飯と共に勢い良く平らげ、食事はすぐに終わった。
「なぁんだ。こんなに美味いなら、もっと採れば良かった」
今日の事を後悔していると、彼の身体に異変が起きた。尋常ではない腹痛。あまりの痛みに、気が遠くなりそうになり、たまたま近くにあった携帯で救急車のコールをした所で、完全に意識が無くなってしまった。
『次のニュースです。東京都○○区で、キノコを食べて意識不明になる事故がありました。調べによると、特殊なキノコで、他の食事との食べ合わせが極端に悪い事から、地元では【煮ても焼いても食えねぇ茸】と言われているキノコの様です。幸い命に別状は無いとの事で、意識が回復し次第、事情を聞くとの事です。それでは次のニュースです…』
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