Gift

13/16
前へ
/19ページ
次へ
次の日。やはりいつもと同じ時間に彼は現れた。 「こんにちは」 「いらっしゃいませ」 どことなく緊張している風な彼は、真っ直ぐにカウンターに向かうと 「カード、書かせてください」 「どうぞ。ペンはありますか?」 「ええ、自分のが」 私は彼に椅子をすすめ、彼が落ち着いて書けるように少し離れた場所で店内の掃除を始めた。 もう、明日から彼が店を訪れることはないんだな。 棚に並べられた商品の埃を払いながら、ぼんやりとそんなことを考える。 直接言葉を交わしたのはここ数日でだが、それ以前の、ショーウインドウに張り付いて商品を眺めていた彼を見ることも、明日からはもうできないんだ…… そこで私は自問する。 なんだ、寂しいのか? ちらりと彼を振り返る。一文字一文字、間違えないよう丁寧に書いている真剣な姿が見える。 そうだな。少し……寂しい。 「できました!」 生徒が先生を呼ぶように、カードを掲げて彼が立ち上がる。 「まあ。見てもいいですか?」 「そ、それは……恥ずかしいのでできません」 嬉しそうに掲げていたわりに、私に見えないように文面を伏せる。 あとは会計を済ませて彼を見送るだけだ。 これで……私の役目は終わり。 .
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加