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「どうか、幸運がありますように」
私はいつものように、送り主の想いが贈られた側に伝わるように、祈りをこめて商品を手渡した。
少しの屈託があったかもしれない。
それでも、表面上はにこやかに、それを渡したつもりだ。
彼が笑顔でありがとうと言った時、なぜかすぐに目をそらしてしまった。
「では、いろいろありがとうございました」
「いいえ……こちらこそ、お買い上げまことにありがとうございました」
事務的に礼をしてドアまで見送る。
ドアの鐘がコロコロ鳴りながら閉まったとき、私はなんだか虚しさを感じていた。
ぼうっと立っていても仕方がないので、カウンターの中に戻り、雑誌を出してめくろうとした時だった。
コロコロ。
鐘を鳴らしてドアが大きく開き、現れたのは彼だった。
「どうしました? 忘れ物でも──」
店のドアを開いたまま、彼はつかつかと入ってくる。
私も商品に不備があったのではと、カウンターから出て彼のもとへ歩み寄った。
──と、突然ひざまずくと、彼は私の手を取って言った。
「ずっとあなたを見ていました。ど、どうか、これを受け取ってください」
差し出されたのは、さきほど渡した商品だ。
二色の包装紙、手の込んだ結び方で飾られたリボン、その箱の中には可愛らしい女の子を模したオルゴールが入っている。
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