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「これ──私に……?」
見ると、プレゼントを差し出す彼の手は少し震えていた。
そっとそれを受け取ると、箱に添えられたカードを抜いて目を通す。
私の髪の色とよく似た縁取りの入っているカードだ。
そこには、店のショーウインドウから商品を見るふりをして私を見ていたということと、彼の名前とが書かれていた。
彼の想い人──それは他でもない私だったのだ!
私はプレゼントをそっとカウンターに置くと、未だにひざまずいている彼の手を取って立たせ、「私もです」と告白した。
「私も、ずっとあなたを見ていた。悟られないように、雑誌を見ているふりをして」
驚いたような彼の表情。
私たちはお互いに笑い出して、それから抱き合った。
物音がしてあわてて離れると、ときおり店にやって来る上品な老人が、目を丸くして入り口に立っていた。
「あれ、きみは……休憩のたびに飛ぶようにどこかへ行ってしまうと思ったら、こういう事だったのか」
紳士の言葉に驚いて「お知り合いですか!?」とたずねると、青年は照れくさそうに
「職場の、上司です」
と頭をかいた。うむ、世間はせまい。
「お邪魔しましたね。ごゆっくり。休み時間は延長しておくよ」
紳士は片目をつぶって見せると、笑顔でドアを閉めていった。
私たちは顔を見合せ、また笑って……再び抱き合った。
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