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客の途切れた昼下がり、私は椅子に腰かけて、ぼんやりと外の通りを眺めていた。
買い物で忙しい主婦や、歓声を上げて走り抜ける子供らや、ショーウインドウを冷やかすだけで通りすぎていく若い恋人たち。
明るい太陽を浴びた石畳の通りは、それだけで幸福な何かが漂っているようだ。
──そろそろかな。
私はおもむろに雑誌を取り出すと、レジカウンターに置いてぱらぱらと適当にめくった。
しばらくして、若く、人の良さそうな青年がショーウインドウの前で立ち止まり、そこに立ち並ぶ商品をひとつひとつ丁寧に吟味する。
──やっぱり。今日も来た。
彼は『常連』だ。といっても、店の中に入ってきたことは一度もない。
いつもこのくらいの時間にやって来て、外から見える商品をじっくり観察して、そして帰ってゆく。
いつからだろう、彼がそうしているのに気づいてから、私は商品を眺める彼を店の中から眺めていた。
何を贈るか決めかねているのか?
それともお金がないのか?
いつも眺めるだけで帰っていく彼に、今日は声をかけてみよう。
ほんの出来心。深い意味はない。
見たいのなら心ゆくまでどうぞ、なんなら店内の商品も。そんな気持ち。
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