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「では、プレゼントする相手を思い浮かべてみてください。身に付けているものの中で、一番印象が残っている色は?」
「一番印象深い色……」
彼はまた困ったように私を見る。
いやいや、私を見つめたってその彼女の好みなんて分からないだろう。
「そうですね──ええと、これが近いかな」
彼は淡い色の包装紙を二枚手にすると、目の前にかざして「どうです?」とたずねる。
「はい?」
「どちらが良いと思いますか?」
「プレゼントをするのはあなたですよ。ご自分で選んだほうがいいのでは……」
「あなたの好きなほうを言ってください。それにします」
そんなことでいいのか!?
「じゃあ……両方使いましょう」
私は少し呆れたように笑って、彼から二種類の包装紙を受け取った。
そうして箱を包んでいるうちに、不意に彼は胸ポケットから懐中時計を取り出した。
「ああ、もう戻らなくては」
「あら、ではお仕事帰りに取りに来ます?」
ほんの少しの沈黙の後、彼は首を横に振る。
「また明日──同じ時間にうかがいます」
私が肩をすくめると、彼も肩をすくめて笑顔を作り「では、また明日」
ドアにつけた鐘がコロコロ鳴り終わると同時に、私は包装を終えた商品を眺めて途方に暮れてしまった。
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