第1話 臆病少女

10/35
前へ
/110ページ
次へ
「あんた、奈津も騙してるんじゃないでしょうね? いい加減に都合の良い時だけいい子ぶるのやめなさいよ。」 「まさか。あんなガキ騙しても何のメリットもねえしな。 まあ、麻百合さんの前では“いい子な優斗”で通ってるが。」 メリット重視の八方美人。 意図的な二重人格。 大人や自分にとって大事な人間には、明るく真面目な“表”の自分を出して偽り。 里菜や翔太など、偽る必要のない人間には冷酷で口の悪い“裏”の自分、つまりは本当の姿を現す。 表と裏、言わば光と陰を場合によって使い分ける人間。 使い分けられることには尊敬するが、本当の人格を知っている里菜には、偽りの姿の優斗が気持ち悪くてしょうがない。 いくら顔が良くても、正直かっこいいとも思えない。 まあそれは、付き合いが長いというのも関係あるかもしれないが。 「そういえば、翔太が探してたわよ。あんたのこと。」 「ああ…いいよ別に。どうせまた、“新しい技を開発したから見てくれ”って言うんだ。 面倒くせえんだよ、あのカス。」 「ずっとそうよね。あいつ、小さい頃からあんた相手に新技の特訓してたもんね。」 「まあ、俺様以外にあいつの技を受け止められるエリートそう居ねえからな。 とはいえ、いい加減うざってえよ。」 里菜と翔太と優斗、この3人は幼なじみだ。 特に、小学2年の時に大阪から引っ越して来た翔太以外の2人は、生まれた時からずっと一緒に育った。 幼稚園や小学校、中学校はもちろん、現在通っている高校も一緒。 翔太がやって来てからは、同じ霊能力者ということもあり、3人は何をやるにも常に一緒だった。 最近は少しバラバラになりつつあるが。 「俺が来たこと、翔太に言うんじゃねえぞ。あいつに会うの面倒くせえ。」 「うん。」 こんな言い方をしているが、翔太と優斗が本当は仲が良いのは里菜が一番よく知っている。 だからこそ、こういうことも平気で言えるのだと。 「ていうか、そんな話する為に来たんじゃねえんだよ。 あのレインコートのガキがお前探してたぞ?」    シズク 「え?雨のこと?」 「大声で手鞠歌を唄いやがるからうるさくてしょうがねえ。 お前、早く行って止めてこいよ。」  
/110ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加