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タイジュ センリョウヤマ
「明日の朝、袋樹様と共に“千霊山”に赴くことになりました。」
その日の晩。
夕食の席で、おもむろに母が言った。
千霊山とは近所に聳える山の名前。
土地自体に力が宿っている霊山だ。
その為、霊的な事件も頻繁に起きる。
「何故ですか?母さん。」
たくわんを箸でつまみながら奈津が問う。
その隣で、里菜も相変わらず無表情な母の顔を黙って見つめた。
「一ヶ月程前に、千霊山で強大な邪気が起きたのは知っているでしょ?
その後すぐ調査しても何も異常は見られなかったんだけど…。
今日の夕方、再び袋樹様が邪気を感じられたらしくて…。
今のところは何も起きてないけれど、念のために明日もう一度調査なされるそうなの。」
“何かあるといけないから、私も着いていくことにしたわ”。
最後にそう付け足し、母は食事を再開した。
袋樹様とは、この地域の霊能力者達の長。
邪悪な気を感じ取る能力を持ち、その力は絶大。
霊能力者ならばある程度の霊的な探知能力は持ち合わせているが、袋樹様の場合は全くの別物。
神経を研ぎ澄ませれば、何キロ離れていようともあらゆることを感じ取れるらしい。
それゆえ、袋樹様の命令により私達が動くことも珍しくはない。
…とは言っても、私はまだ実践に出たことはないんだけれども。
「里菜。」
ふと、母が私を呼んだ。
「え、はい!」
シング
「私はこれから“叉魂”の手入れに入らせていただきます。
だから、夕飯の後片付けお願いするわね?」
母のなんてことない頼みを、私は素直に受け入れる。
鍛練に比べれば、皿洗いぐらい…。
その時だった。
ガラガラガラッ
「麻百合さん!麻百合さんはいますか!?」
玄関からけたたましい声が聞こえた。
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