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ただ事ではなさそうなその声に、私達3人はすぐに玄関へと向かう。
そこには、肩を上下させ息をする優斗がいた。
「まあ、優斗さん。どうしたの?」
問う母に対し、優斗は少し息を整えてからようやく話し出した。
「…千霊山の麓に、妖怪が出たんです!おそらくあれは、“邪龍”…。
今、大人達が戦ってますが、手が足りません。
応援お願いします!」
いつもの余裕を無くし、焦って話し続ける優斗。
話の内容からも分かるように、事態は一刻を争うようだ。
街に妖怪が出現した。
“邪龍”とはその名の通り、邪悪な龍の妖怪。
巨大な身体を持ち、人を喰らう古くからの怪物だ。
頭は悪く、位としては大したことはないが、その攻撃力を侮ってはいけない。
「分かりました、すぐに準備します。
優斗さんは先に行っていて下さい。」
そう言い残し、母は家の奥へと消えていく。
焦る優斗とは対照的に、その言い方は冷静でいつも通りだった。
母にとって、これくらいのことは慣れているのかもしれない。
「さて…。伝えることは伝えたし、俺も現場に戻るかな。」
母の姿が見えなくなった瞬間、素に戻る優斗。
焦っていたのは演技だったようだ。
余裕があるようだが、こいつの場合は緊張感がなさすぎるだけのような気がする。
「そんな…気を抜いてて大丈夫なの?」
たまらず里菜が聞くと、優斗は唇の端を吊り上げ鼻で笑った。
「心配いらねえよ。邪龍なんて力が強いだけで頭悪いし。
それに、麻百合さんが来てくれれば100%大丈夫だ。」
この地域の霊能力者達にとって、母の存在は大きいようだ。
優れた霊能者だとは里菜自身も思うが…。
何となく複雑な気持ちになってしまう。
「じゃあ、俺は行く。」
「…うん。」
そう言い残し、優斗は再び外へと戻った。
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