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数秒後、部屋着から動きやすさを重視した戦闘服に着替えた母が再び玄関に戻って来た。
相変わらず、着替えるのがやたら早い。
そこも長年、戦士として生きてきた経験の賜物なのかもしれない。
そして、母は思いもよらないことを口にする。
「里菜、やっぱり後片付けはいいから、あなたも戦闘服に着替えて外に出なさい。」
「え?」
戦闘服に着替えろということは、任務に出ろということ。
里菜は母の言葉を理解するのに若干の時間を要した。
「…どういうこと?」
「もちろん、まだ戦いには出せないけれど、任務の雰囲気を感じ取るのも勉強です。」
靴を履きながら、母は更に続ける。
「現場から1キロ程離れた場所にいなさい。身体の大きな邪龍ならばそこからでも見えるわ。
戦闘の様子を学ぶのです。…それに…。」
準備を終え、扉に手をかける母。
こちらを見ずに、最後に付け足す。
「…少し嫌な予感がします。“何か”あったら、無理をせずに逃げなさい。わかったわね?」
「…は、はい…。」
意味深な言葉を残し、母は出て行った。
“何か”って…。
母の言う勉強も確かに必要であるだろうし、任務の時に外に出られるのは嬉しいことだ。
だが…。
母の言葉が気になる…。
「…行かなきゃ…。」
いつまでも気にしていても仕方ない。
母の言う通り、指示通りに動くしかない。
早速準備をする為、里菜は自分の部屋へ向かう。
“嫌な予感”ってなんだろう…?
母の声が、しばらく頭の中で回っていた。
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