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「この辺かな…。」
遠くに黒煙が見える。
邪龍のブレスにより舞い上がるものだろう。
その煙の中に、確かに龍の影がある。
1キロ離れた場所と言われたが、実際にはもっと近いかもしれない。
小さくだが、煙が晴れると邪龍の姿はよく見えた。
街が破壊されたというようなことはなさそうだが、まだ倒せてはいないようだ。
母はもうあそこにいるのだろうか…?
「よかった…。被害も少ないみたいね。」
この位置からではさすがに戦っている人間達は見えないものの、里菜の想像以上に被害は少ない様子だった。
千霊山の木々がわずかに倒れているのが見えるが、それぐらいだ。
グオオオオッ!!!!
「うっ…。」
その雄叫びは間違いなく邪龍のもの。
感じる大気の揺れ、妖気の乱れ。
おそらく誰かの攻撃により苦しんでいるのだろう。
敵とはいえ、悲痛に聞こえる。
決着はもうすぐのようだ。
「…ん?…」
その時。
何かに気付き、里菜は辺りを見回す。
微かな邪気。
あの邪龍とは別の乱れた妖気。
近付いて来る。
ゆっくりと、でも確実に。
私に、迫っている。
妖怪だ。
近くに、何かいる。
「…!!」
それを確信した瞬間、それがどこにいるのかはすぐに分かった。
右側後方。民家の影。
家と家の間を、誰かが…。
いや、何かが走っている。
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