第1話 臆病少女

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暗い部屋に、何かが見える。 『…、…、…、…。』 聞こえるのは、意味の分からない不思議な呪文。 唱えているのは自分だけれど、それでもよくわからない。 早く。 …早くして。 もう、時は過ぎているのに。 「里菜、時間よ。」 「わかってる…!」 聞き慣れた母親の声さえ、今は疎ましい。 目の前には壺。 古くて、高級そうで、でも見る人が見れば明らかに異質な何かを感じ取れる壺。 私の今の敵は、こいつなんだ。 「里菜、出たわよ。」 「…!!」 音もなく。 姿もなく。 見えるのは影のみ。 しかし、時間の経過と共に、それははっきりと姿を現す。 感じる殺気。悪寒。 恐怖はない。 あるのは…。 あるのは…? 「里菜…?」 うねうねとうねる出て来たそいつ。 蛇のように天井近くをはいずり回り。 黄色い目を、里菜に向ける。 いつのまにか、私は動けない。 …駄目だ。 「里菜!」  
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