8人が本棚に入れています
本棚に追加
------…。
「全く…。また駄目なのね。」
「…ごめんなさい…。」
修練場から出て、私は母に怪我の手当てをしてもらいながら地面を眺めていた。
特に意味はない。
ただ、母の目を見ることができないだけだ。
上等な紫色の着物。
光を淡く跳ね返す帯。
百合と波をイメージした模様が美しく、母にはとても似合っている。
…が。
今はその姿すら見られない。
それほどに…バツが悪い。
「あなたも、もう17歳…。そろそろ任務に出てもいい頃よ?私なんて15の時にはもう戦っていたのに…。」
「…。」
「おかしいわね…。“霊槍”も使いこなせているし、妖術や体術なんて優秀な方なのに…。どうして本物の敵を前にすると動けなくなるのかしら?」
「…それは…。」
本当はわかっている。
どうして実戦に弱いのか。
恐怖はないと、そう思い込んでいるけれど。
本当は怖い…。敵が現れて、怪我をして…。
自分に何ができるのかが分からなくなってしまう。
自信を失い、動けなくなってしまう。
つまりは…戦いに臆しているのだ。
ジャコン
「今日の相手は“蛇恨”。侮ってはいけないけれど、あなたの実力なら十分に倒せるはずよ?
なのに…逆に手傷を負わされ、私が助けるまで何もしないなんて…。」
怪我をした右手が痛む。
軽い傷だ。
邪悪な蛇の魂の集合体と言われる蛇恨は弱い妖怪ではあるけれど。
その牙には毒が含まれている。
母の術のおかげで毒は抜かれたけれど。
痛みを帯びる、噛み傷は残ってしまった。
「あなたに足りないものは…“自信”よ。そして、“経験”。霊能力者たるもの、怖がっていてはいけないの。
心を強く持ちなさい。退いては駄目。あなたは、十分強いのだから。」
「…はい。」
母の励ましの言葉は…。
いつも通り、プレッシャーに満ちていた。
最初のコメントを投稿しよう!