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霊能力者の一族・神矢家。
代々、人知れず悪行を働く闇の魂から、人々を守ることを生業としている家系。
神矢里菜は、そんな家に生まれたのだ。
幼い頃より霊力を使いこなすことを学び、戦う術を教え込まれて来た。
周りの人間には、もちろん普通の一族だと偽って生きてはいるが。
何か霊的な事件が起きれば、すぐに駆け付け片を付ける。
見返りはなく、掲げるものは正義。
その考え方は嫌いではないが、まだ17歳の里菜には疲れる御家柄だった。
「はあ…。」
縁側に座り、空を見上げる。
今日の修練は終了。
怪我もしたし、何より師範である母がやる気を失ってしまったからだ。
弱い妖怪相手に不甲斐ない結果を出してしまった里菜。
優秀な霊能力者である母はエリート思考が強く、できの悪い娘にいつまでもかまっていられるほど暇でもない。
とは言え母親には間違いないので、それなりの愛情を傾けてくれているのは伝わるものの。
時折感じる壮絶なプレッシャーは、里菜を更に追い込むのには十分だ。
「いい天気だ…。」
視界に広がる5月の青空と。
無駄に広いこの家の庭。
手入れされた松の木や池、いかにも“風流”と言わざるをえない光景。
この場所が里菜は好きだった。
修練後の疲れた身体は、ここで休んで癒す。
ここで飲むお茶も、格別に美味しい。
「…。」
茶の水面に映る自分の顔。
友達の真似をして染めた金髪も大分馴染んできた。
最初は家族に何を言われるか分からなかったが、意外と何も言われなかったのをよく覚えている。
『修練さえ怠らなければ、何をしてもいいわよ。』
母にそう言われた時、そんなにルールの緩い家だったのかと本当に驚いたっけ。
「よう里菜!どないしてん?」
ふと、近くで声がした。
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