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白い霧が、遠くの視界を遮り、次第に体温を奪い始めていた。
寝間着のシャツに、薄手のローブを着ただけだったのがいけなかったのか、少女はしかし、後悔すら惜しい今、この時、ひたすら走り続けていた。
朝霧は彼女の行く手を遮る様に深かった。
二階の窓から見た〝その姿〟はこれほどまでに遠かっただろうか。
「はっ、はっ、はっ……。」
ローブの隙間から冷たい空気が入り込む、外套の役割などとっくに果たしていない。
それでも少女は走り続けた。
あの無惨な姿を目のあたりにしてしまった彼女は、もはや寒さなど頭の外だったのである。
……やがてしばらく走って、少女はようやく〝彼〟の傍まで来た。
「……なんて、こと?」
彼は大きな樹の根本にひっそりと在った。
何があったのか、右足は折れ、切り傷は深く、血は滴る事を忘れ、ガチガチに固まっている。
目は虚ろで、だけど確かに悲しそうで、ただ、辛うじてこちらを見ているだけ。
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