プロローグ/約束

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 心の中でそう付け足し、着けていたナイトキャップを外す実。  しかし兄の助言も虚しく、眼前の少女は後頭部に手を置いて恥ずかしそうに苦笑い。 「いやー。なかなか他の人じゃあやらせてくれなくて……。だからみのにぃ、コブラツイストやらせてっ! コブラツイストが嫌ならワームでもいいしドラゴンスクリューでもいいよ。それとも王道のジャーマンスプレックス!?」 「おま……。その無垢な笑顔をクラスメイトに向けなさい。そしたら彼氏くらい三日で出来るだろうに。あとジャーマンスプレックスは俺の必殺技だ。他の誰にも渡さん。そしてプロレスはしない。言っとくけどワームすんな、アレだけはシュールすぎるから」 「いーやーだっ。プロレス技させてよー……みのにぃで」  駄々をこねるようにして可愛らしく首を左右に振る妹を見て、心から残念に思う長男こと実。  蛇足。  コブラツイストは相手に巻き付く技、ワームは倒れた相手のそばで躍り狂うように足をバタバタさせる技。ジャーマンスープレックスは相手の腰を後ろから抱いて一気に体を反らす一撃必殺技である。  閑話休題。  現実問題、末っ子たる行の容姿は非常に可愛らしい。  大きくてよく動く黄色い瞳はさながら猫を連想し、人懐っこい性格も相まってよく実の友人も行目当てに遊びに来ることすらしばしば。  身長だって相応であり、決して悪いところはないはずである。  そう、プロレス技以外は。  何をどう間違えたのか、行はすっかりプロレス技を気に入ってしまい、何年も前からこうして兄妹間でプロレス技の応酬が勃発するようになった。 「また今度。今日の夜にでもまた相手してやんよ」
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