第三章/追跡

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☆         ☆  電車が来るや否や、弾かれたように素早く電車へ入る言を見て、渦山はほくそ笑んだ。  ――馬鹿め。  よりによって車内は殆ど満員。渦山の能力は対象をずっと見ている必要があるが、すし詰め状態なら動くことはおろか、身じろきすることすら難儀する始末。  これぞまさに、袋小路。  高鳴る心臓を落ちつけ、渦山は頭の中で時間を確認する。 (あと、十秒!)  最初は時計を見ながらであったためになかなか難航したが、今となっては脳内で三分測ることなんて造作もない。 (九秒……)  八秒。  言はまだ気付いていない。あと数分したらその醜態を晒すことになるのに。  いや、その方が本人にしてみれば幸せなのかもしれない。 (あと……三秒!)  二秒。  一秒――  渦山の左こめかみに、矢が突き刺さった。
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