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そしてその車両の乗客は、全員女。
「!?」
狼狽している渦山が視界の端に捕えたのは、一枚の車内ポスター。
『昨今続出する痴漢対策のため、この車両も
午前8:00~午前9:30
午後5:30~午後7:30
はこの車両を女性専用車両とさせていただきます。
どうかご理解のほどをよろしくお願いします。』
「なにぃ……?」
連動して自分を襲う、津波のように圧倒的な量を備えた恐怖感。
確かに自分は狩人だ。
狩られる側でなく、相手の首に牙を突きたて、一気に喉笛を引きちぎる狼だ。
しかし、今回は違う。
仔牛と侮っていた相手が、ヌーの大群を引き連れてきたような感覚。
――あの女の仕業か?
そう思った時にはもう遅かった。
車両内の女性たちの目には、明らかな敵意が灯っている。
招かれざる黒一点を糾弾するための視線。そして突き刺さる敵意と嫌悪。
敵意の矢が渦山の鎖骨を砕く。
敵意の矢が左肩を貫通する。
敵意の矢が鼻をもぎ去る。
敵意の矢が両目を抉る。
敵意の矢が眉間を掠める。
どこを向いても敵意、敵意、敵意。
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