第四章/カワセミ

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☆        ☆ 「あぁ、そうそう。……そこをなんとか、な?」  薄暗い町外れにて、有は携帯片手に切り株に腰掛けていた。もう片方の手には着火された煙草が指に挟まれ、頼りない明かりを灯している。 「……さんきゅ。じゃ」  通話を終えた有は携帯を畳み、おもむろにポケットへしまう。  街の騒がしさから少し離れた木々のなかで、有はいそいそとギターケースを開封。手を突っ込んでまさぐれば指先に確かな感触。躊躇いもなく一気に引っ張り出した。  右手の中にはSteyr SSGーPIIKが握られていた。  全長911mm。  バレル長は508mm。  重量は3.9kgと比較的軽量で、スコープ搭載時は4.6Kgとこれまたほかと比べたら非常に軽い設計となっている。  最大射程――750m。  オーストラリアの会社が開発した軍隊特殊部隊用のスナイパーライフル。  全体的に短く、室内においても取り回しのしやすい仕様となっている。  ボディは漆黒に塗りつぶされているのが漆黒のスーツと相まってさながら喪服を着た死神。グリップは珍しく、木のグリップである。  これは本人がオーダーメイドする際に、『そっちの方が玄人みたいで格好いいから』と言い張って選んだものだ。同僚が何度も『素材はフルで統一した方がいい』と説得をしようとしたものの、彼女は頑として変えようとはしない。  そして目下の目標は、木製グリップの実力を知らしめること。
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