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俺は、月を見ているのが好きだ。
月は辺りを優しく照らしてくれる、まるでこんな俺でも包みこんでくれるように……。
縁側に座っている俺はお猪口の酒を飲み干した。
そして、ふと手元の酒が空になっていることに気が付いた。
「飲みすぎはいけませんよ」背後から声が聞こえる。
この声は千里か。
「心配しなくても、これで終わりだ」
振り返って、にこりと笑ってみせる。
千里も、にこりと笑顔で返してくれた。
こうして、心配してくれる人がいることは嬉しいものだなと思い、再び俺は月を見上げた。
「なにか、悩みでもあるのですか?」
千里は尋ねた。
千里はこういうところが変に鋭い。
「なぜそう見えた?」
「いえ、なんとなく…そう思っただけです…永倉さん達と島原へ行かなかったようですし。」
「俺はあいつ等といつも一緒にいるわけじゃねえぞ?今日はなぜか、気が乗らなかったんだ。」
「そうですか…………」
千里もなんだか元気がない。
そりゃそうだ、こんな男ばかりの箱に軟禁されてんだ。
不安でないはずがねえ。
そんな彼女に、俺はなんの言葉も掛けてやれないし、なにもしてやることもできない。
新選組十番組組長
新選組の中じゃ大層な肩書きかもしれねえが、女一人笑顔にすることもできねえ。
情けねぇ。
「月……綺麗ですね。」
千里はそう言うと、俺の隣に腰掛け、月を見上げた。
ふと、千里を横目で見る。
悲しげなその横顔は月明かりに照らされ…………いつもより綺麗にみえた。
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