千里を彩る

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「蒼ちゃん! おはよっ!」 「あぁ、おはよぉ」 「今日のお昼さぁ、光と結衣の三人で学食見に行こうと思ってるんだけど、蒼ちゃんも来ない?」  蒼ちゃんは食べ物のことならノッてくるはず。  タカを括っていたあたしは出来レースの様な感覚で彼を誘った。 「今日の昼は用事があるんだ。だからボクは行けない」 「用事?」  予想外の言葉に同様して、思わず声が半音程上がってしまった。  用事って一体何だろう?  ものすごく気になるけど……。 「そっかぁ。じゃぁ何がオススメのメニューかリサーチしてくるから、今度一緒に行こぉね!」 「わかった。麺類を……主にラーメンを重点的にチェックしておいてくれ」 「任せて!」  親指を立てて、彼に目一杯の笑顔を向ける。  《フッ》と笑いながら、黒板の方を向いた彼の表情を、あたしはずっと眺めていた。  蒼ちゃんが笑うと自分が何故生まれてきたか実感し、自分の使命を再確認できる。  あたしは彼の望むことを全て叶えてあげたい。  その為にはどんな努力もいとわない。  冥府に繋がれた彼の魂を救済できるのなら、あたしは悪魔にだって魂を売る。  いや…………あたしは既に悪魔なのかもしれない。  この際、天使でも悪魔でもどっちだってかまわない。  彼を運命から解き放つことができるのであれば……。  彼の名前は――  月影 蒼(つきかげ そう)  彼はあたしにとって唯一無二の存在であり、幸福と不幸、二つの鍵を握っている人物だ。  結衣と同じく、あたしが転校した中学校に彼はいた。  今でこそ社会に溶け込んでいるが、当時の彼は学校中から恐れられる存在であり、腫れ物を触るかの様な扱いだった。  事実、あたしが蒼ちゃんと初めて出会った時、彼は全身に返り血を浴びていた。  横たわる男子生徒の横で鮮血を浴びてなお、朱に染まる無表情な顔が今もハッキリと脳裏に焼き付いている。  彼の暴走には中学生が、背負うに耐え難い運命と暗い過去が背景にあった。
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