千里を彩る

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 彼に両親はいない……。  生まれたその日に、ある孤児院の前に捨てられたんだそうだ。  なぜ生まれた日に捨てられたと分かったかというと、彼が捨てられた際、ヘソの緒が付いたままで、なおかつ羊水も渇ききっていなかったという……。  まだ肌寒い、2月の終わりの出来事だったらしい。  そして、その捨てられた孤児院の名前が……『月影学園』  月影 摩耶(つきかげ まや)さんが園長を務める児童養護施設だ。  言うまでもないが、彼の苗字はこれに由来する。  事実上、月影園長の養子ということだ。  『蒼』という名前は、捨てられた際に青い毛布に包まれていたことから園長が名付けた。  園長は彼を含め、施設の子供達を我が子の様に愛し、その愛を受けながら子供達は真っ直ぐに育っていった。  貧しいながらもみんなで力を合わせ、幸せに暮らしていたと、蒼ちゃんは話してくれた。  しかし……そんなある日。  彼が6歳の時。  思いもよらぬ事件が起こった。
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