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「どういった御用件ですか?」
「お仕事中恐れ入ります。私どもは『WSO』の者でございます」
黒服は内ポケットからIDカードを出し、提示した。
そのカードには確かに『World Security Organization』と明記され、顔写真も入っている。
「WSO……ですか?」
耳にしたことがない珍しい単語に園長が首をかしげる。
「はい。先日、この周辺で免疫力の弱い子供に感染する新種のウイルスが発見されまして……」
いぶかしげな園長を気にも留めずに黒服は淡々と話を進めていった。
「ウイルス? ホンマですかぁ?」
俄かには信じられない情報に、園長は半信半疑な様子。
そんな園長の表情を見て、黒服は若干表情を曇らせながら話を続けた。
「はい。しかも、手遅れになれば死に至るほど強力なウイルスでございます。それだけにとどまらず、拡大すると世界を巻き込んだ感染症に発展するとの有識者の見解もございます」
「そんな……。うちの子供達にも感染している疑いがあると?」
「おっしゃるとおりです。先日発見されたウイルスはすぐ近くの池に飛来する水鳥から採取されました。子供達が感染していても何ら不思議はございませんので」
「そんなまさか……」
初めて事態の深刻さに気付き、疑いの表情を浮かべていた園長の顔はみるみる青ざめていった。
自分自身の命よりも大切な子供達の一大事とあっては当然の反応だろう。
「ご安心下さい。そのウイルス感染を早期発見するために我々が参りました」
「子供達を診て頂けると?」
「はい。さっそく先生に診察して頂きましょう」
「お、お願いします!」
彼らの言う『診察』を受けることとなった総勢十六名の子供達は学園内のレクリエーションスペースに入り、一列になるよう指示される。
その最後尾には、幼い頃の結衣がいた。
その一つ前には蒼が列ぶ。
そして『診察』が始まった。
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