蒼の過去

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「では最初の子、おいで」  白衣を着た『ドクター』と呼ばれる男が子供達を一人ずつ目の前の椅子に座らせる。  そして、手に付けていた革の手袋を取り、子供の頭に手を乗せ、いくつか質問していく。 「あのぉ……ホンマにそんなんでわかるんでしょうか?」 「ご心配なく。ドクターは世界的な名医ですから」  黒服は真っ当な理由すら告げずに《名医ですから》の一点張りで園長をたしなめる。  普通の人間なら不穏な空気に気付きそうなものなのだが、子供達の命が危険に晒されているかもしれないという状況の中で、園長に冷静な判断を求めるのは些か(いささか)酷だったようだ。  園長は藁にもすがる想いで、彼らの言う『診察』を見守っていた。  そうこうしているウチに、一人、また一人と子供達の診察が終わっていく。 「どうですかドクター? この中に『ギフト』を持つ者は?」 「いや、いないようだな」  黒服に問い掛けられた白衣の男が残念そうに片方の手を広げ、首を横に振る。  そんな『ドクター』を見て、黒服も残念そうに二、三歩後ろに下がっていった。 「次の子おいで」  ついに蒼の番が回ってきた。  彼は白衣の男を上目遣いで凝視しながら、親のカタキを見るかの様な視線を送りつつ椅子に座る。 「どれどれ」  そんな蒼の辛辣な視線を意にも介さず、白衣の男はイスのローラーを滑らせながら蒼に近づいた。  そして、他の子供達と同じ様に彼の頭上に手を持っていく。 《パシッ》  何かしらの悪意を感じたのか、蒼は白衣の男の手を自らの手で振り払った。
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