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「キャーッ!」
昼休みの廊下。
ガラスの割れる音と共に、女子生徒の甲高い悲鳴が響く。
廊下には数人の男子生徒が血まみれで横たわっており、その傍らには学生服を鮮やかな深紅に染めた生徒が立っていた。
血で真っ赤に染まる『彼』は、横たわる男子生徒に馬乗りになると、表情をまったく変えないまま胸ぐらを掴む。
そして、幾度となく殴りつけたであろうことが伺える血まみれのコブシで、さらに男子生徒を殴りつけた。
鈍い嫌な音と共に、男子生徒は口や鼻から血を噴き出し、舞い上がる赤い霧が『彼』の制服をより一層紅く染めてゆく。
そう……。
『彼』の制服が血まみれだったのは自分のモノなどではなく、返り血を浴びたからだったのだ。
エンドレスに殴りつける『彼』を、男子生徒は恐怖に染まる眼差しで見ていた。
「た、助けて! もう殴らないでくれっ!」
「………」
男子生徒の懇願を無視し『彼』は無言で顔面を踏みつける。
すると男子生徒は許しを乞う言葉だけでなく、ついには悲鳴すらも上げなくなった。
(異常だ……)
あたしの目にはバイオレンステイストな映画でも観ているかの如く、現実味のない光景が映し出されていた。
ただし、そこには――
血の臭い。
ギャラリーの悲鳴。
被害者の嗚咽。
そして……加害者の異常とも言える殺意。
造り物では決して感じることができない『リアル』があった。
(何ということを……)
見てはいられない地獄絵図の様な光景に、胃から内容物がせり上がってくる。
それと共に、言いようのない怒りが沸々と込み上げてきた。
「やめなさい!」
気がつくとあたしは『彼』に対して叫んでいた。
「……何やお前は?」
『彼』は男子生徒の返り血により朱に染まった顔を向け、こちらを睨む。
いや……睨んだ様に見えただけかもしれない。
『彼』の放つ圧倒的な殺気に、あたしは思わずしりもちを着きそうになってしまった。
「何だっていいでしょ! とにかくその人に暴力を振るうのはやめなさい!」
恐怖で震える手を胸に当てると、いつのまにか体全体が震えていることに気付く。
でも……それでも……。
止めなきゃ……この人を……。
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