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「むっ」
手を振り払われた白衣の男は一瞬戸惑い、蒼に視線を向ける。
しかし、こういったコトに慣れているのか、すぐに元の表情に戻った。
「蒼っ! ジッとしとかなアカンやろ! 先生が診察できへんやないの!」
見兼ねた月影園長は、蒼に動かないよう注意する。
それは、ウイルス感染の有無を調べ、子供達が安全であることを証明したいが為の親心だったのだろう。
「あい……」
そんな園長の心情とは裏腹に、蒼はイラついているようで、足の裏を地面に《バンバン》と叩き付けながら仏頂面をしていた。
「坊や。おとなしくしてたらすぐに終わるからね」
白衣の男が子供をあやすかの様な口調で蒼に語りかけながら、再度頭に手を置いた。
その瞬間……。
《ガタンッ》
白衣の男が突然立ち上がり、焦った表情で蒼の頭の四方八方に手を当てる。
「どうされました!?」
何事が起こったのかと、周りにいた黒服が一斉に駆け寄る。
離れて見ていた園長も異変に気づき、青ざめた顔で駆け寄った。
「な、何も見えん……」
「そんなまさか! ドクターの能力で見えないものが!?」
今まで表情を変えず、ロボットの様に佇んでいた黒服達が、俄かにざわめき始める。
「蒼君だったね? 好きな食べ物は何かな?」
白衣の男は相変わらず蒼の頭の四方八方に手を当てながら、他愛もない質問を投げ掛ける。
「はぁ? オカンの作った豚骨ラーメンや!」
頭をイジくり回されているからなのか、蒼の不機嫌さは沸点に達しようとしていた。
「ダメだ……やっぱり見えん。こんなことは初めてだ」
白衣の男はポケットからハンカチを出し、忙しなく汗を拭う。
「ドクター! とりあえず研究所に連れて行きましょう」
「そうだな。上層部なら何か知っているかもしれん。能力を無効化する能力なのか、それとももっと別の……」
黒服の提案に頷き、右手に革の手袋を付け直すと、静かに園長に顔を向けた。
「あのぉ、蒼は……?」
ただならぬ雰囲気に、園長は心配そうな顔をしながら恐る恐る白衣の男に質問する。
「残念ながら蒼君はウイルスに感染している可能性があります。研究所で精密検査をしてみなければなんとも言えませんが……」
「えっ? そ、そんな……そんな……」
園長は《信じられない》という様な面持ちで床に座り込み、胸を押さえて祈るように震えていた。
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