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あれ?
なんであたしの後ろに……?
ビックリしてオロオロするあたしに対し、もたれ掛かっていたドアから背中を離し、蒼ちゃんが口を開く。
「ボクに何か用か?」
この人の問いに対して嘘をついても無意味だというのは、あたし自身嫌という程よくわかってる。
「蒼ちゃんの用事っていうのが気になって……」
ここは正直に話すしかない。
「三人で学食に行くんじゃなかったのか?」
「うん。好奇心が勝ってしまいました」
「ふぅん……」
一向に表情を変えない蒼ちゃんは、学生の少なくなってきた廊下を眼球の動きだけで見渡し、あたしに視線を戻す。
「お前も付いて来るか?」
彼は制服のネクタイを少しばかり緩めながら、意外な言葉を返してきた。
てっきり追い返す意図の言葉が返ってくると思ってたのに。
「えっ? いいの!?」
ビックリし過ぎてドモってしまうあたしを、蒼ちゃんは首を傾げて見つめていた。
「嫌か? 嫌なら帰れ」
「い、行く行く! 行きます!!」
まさか……こんなこともあるんだなぁ。
でも一体どこに行くつもりなんだろう?
「ねぇねぇ、蒼ちゃん! どこまで行くつもりなの?」
彼の横に並び、制服の袖を掴みながら一番気になっていた質問をしてみた。
「そこだ」
彼は右斜め前の部屋を指差し、ドアの前で立ち止まる。
「保健室?」
「ああ。ここに用がある。」
そう言うと、彼は二回ドアをノックをしてから、返事を待たずにドアを開けて中に入った。
保健室へと消えて行く蒼ちゃんに、慌ててあたしも後ろから付いて行く。
中には、二十代後半ぐらいの凛とした雰囲気を漂わせる女性がデスクチェアに座っていた。
保健室の先生だ。
彼女は何かの書類に目を通しながらコーヒーを飲んでいる。
(見えないけど、この香りはコーヒーだと思う)
横のテーブルでは女子生徒がお弁当を食べながら談笑しており、制服の左胸に付いているエンブレムの色から三年生であることが伺える。
入ってきたあたし達を書類越しに見ると、先生はコーヒーカップをデスクに置いた。
確かこの先生の名前は……。
「柊 綾子(ひいらぎ あやこ)で間違いないな?」
そう! 柊先生だ! って……何で蒼ちゃんが先生のフルネームを知ってるのだろう?
人の名前なんかには全くと言っていいほど興味を示さない人なのに……。
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