昼休み

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 柊先生はチラリと女子生徒達を見ると、蒼ちゃんに近付き耳元で囁く。 「場所を変えよう」  先生の言葉に蒼ちゃんは無言で立ち上がり、ドアへと向かった。  あたしも状況と先生の意図を理解し、彼の後に付いていく。 「お前達。飯を食ったらちゃんと片していけよ。それとコンロは使うな。火事になるとシャレにならんからな」  先生は女子生徒達に保健室での基本的な注意事項を伝える。  それは間接的に責任者である自分自身が部屋を離れることを伝えていたのだろう。  あたし達は保健室を出て、職員専用のエレベーターに乗り込み上に向かう。  三階で降りて静かな廊下を歩くと、誰一人擦れ違う人がいないことに気付いた。  どうやらこの静けさの原因は生徒が滅多に来ない教職員専用フロアであることらしい。  蒼ちゃんが先頭。その後ろにあたしは先生と並んで歩いていた。  彼は廊下を数メートル進むと左へ。  その先には階段と屋上しかない。 「おい! 君! 屋上は鍵がかかっていて入れないはずだぞ」  柊先生が階段の下から蒼ちゃんに声をかける。  さすが教職員。学校を熟知している。  でも……。 「鍵とはコレのことか?」  蒼ちゃんは後ろから見上げる先生に顔すら向けず、人差し指に掛けた鍵をクルクル回す。 「なるほど……。場所を変えるであろうコトまで想定の範囲内ということか」  先生が白衣の襟を直しながらあたしの顔を見て苦笑いする。  無理もない。誰だって蒼ちゃんの前ではこうなってしまう。 《ガチャ》  扉を開けるとまだ少し肌寒い風が吹き抜け、屋上に出ると綺麗な青空が広がっていた。  屋上に出た蒼ちゃんは、振り返りもせず空を眺めている。  そんな彼を白衣のポケットに手を突っ込んだまま見つめていた先生が、警戒心を維持したまま口を開く。 「最初に一つだけ私の質問に答えてくれ。君は一体何者だ?」  まぁ、当然の質問だよね。 「ボクは月影 蒼。今年からこの学園の一年一組に在籍している」  やっと蒼ちゃんが振り返り、風に吹かれて目にかかった前髪を気にもせず答える。 「なんだと!? まさか……本当に月影 蒼なのか!?」  『月影 蒼』という名前を聞いた瞬間、先生が明らかに狼狽した。  柊先生って蒼ちゃんの昔の知り合いなのだろうか?  大体どういう繋がりかは想像できるけど。
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