屋上の駆け引き

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「つまりお前は、奴らが進めていた『アークプロジェクト』に参加していなかったということか?」  順を追って彼が質問を続ける。  普段はほとんど話さない蒼ちゃんの過去に関連するワードが頻出し、あたしは何とも言えない気持ちになった。 「君も知っているとは思うが、あのプロジェクトは私が書いた二つの論文と理論に基づき立ち上げられたものだ。運営、執行に直接関わってはいないものの、間接的に骨組みを作ったのは私だろうな」  見上げながらそう語った先生の目は、とても悲しそうに空の青を映した。  この人もきっと後悔してるんだ。  自分の唱えた理論によって、まだ幼い子供達を巻き込んだ、大きなプロジェクトへと発展したことに。  発表されたその論文を、あたしも中学生の時に二つとも読んだことがある。  先生が書いたことまでは知らなかったけど。  タイトルは確か…… 『創造論におけるシンクロニシティの位置付け』  それと…… 『終末進化論の遺伝的アルゴリズム検証』  どちらの論文も『世界には特殊な力を持つ者が存在する』という考えに基づいたものだ。  論文タイトルを見ただけでは想像しにくいと思うけど、簡単に説明すると……  前者は神が世界を創り『ヒト』も神が創るという前提で『特殊な能力を持つ者は先天的に能力を授かって生まれてくる』という仮説。  後者は創造論とは違い、神の介入を許さず『ヒト』は経験や人為的な影響により進化するという前提で『特殊な能力は生まれながらに持っているのではなく、後天的に解放及び発現する』という仮説である。  かなりかいつまんで説明したけど、要約するとそういうことだ。  先生はこのように特殊な能力を持つ者に対し、対極の位置からアプローチすることで結論を導きだそうとしたんだろう。  恐らく悪意など無かっただろうし、純粋に知識欲や向上心の為だったはず。  それを巨大な権力によって捩曲げられ、利用された……。  いや……違うな。  悪用されたんだ。  人の持つ能力や技術は、時として自分の意思とは無関係に不特定多数の人を傷付ける。  蒼ちゃんも被害者だけど、柊先生もきっと被害者なんだ……。  蒼ちゃんを見ると、顎に右手を当て、遠い目をしている先生を眺めていた。
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