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「あらあら、千里ちゃん起きてたのかい?」
急に後ろから名前を呼ばれたことに少し驚きながら首だけで振り返る。
優しい声の主はあたしのお婆ちゃんだった。
料理等の家事をする時だけに着る割烹着姿で台所の入口に立っている。
「うん。おはよぉ、お婆ちゃん。あたしお腹空いちゃった」
パジャマの上から空腹でへこんだお腹を円を描く様にさする。
「おはよう、千里ちゃん。はいはい、今すぐご飯作りますからねぇ」
冷蔵庫を開けながらお婆ちゃんは優しさの結晶の様な笑顔で微笑みかけてくれた。
「さてと……。あたしは御飯ができるまでに学校へ行く準備しとかなきゃ」
洗面所で顔を洗い、部屋に戻って学校指定のカッターシャツとスカートに着替える。
その姿を鏡で見ながら先程見た夢を思い出して、ついつい表情が緩んでしまった。
「あの頃の蒼ちゃん……ちっちゃくて可愛かったなぁ」
思い出し笑いをしながらコンタクトを着け、お婆ちゃんのいる台所へと向かった。
台所には焼き魚のいい匂いが広がっており、空腹であるにもかかわらず一層食欲が増す。
すでに御飯、納豆、お婆ちゃんが焼いてくれた卵焼きがテーブルに並べられていて、その前にあるイスにあたしが座る。
「毎日質素な御飯でごめんなさいねぇ。九十九家にいた頃はもっと豪華な物を食べてたでしょうに」
お婆ちゃんが申し訳無さそうな顔をしながら湯気のたつみそ汁を差し出した。
「何言い出すのよぉ! いつもありがとぉ。あたしお婆ちゃんの御飯大好きだよ。それじゃあ、いただきまぁす!」
あたしは大きなテーブルに一人で座り、これでもかと並べられる高級なフランス料理よりも、小さなテーブルでお婆ちゃんと二人で囲む家庭的な和食の方が大好きだ。
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