千里を彩る

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「今日もいい天気だっ!」  戸締まりをして、鍵をポケットに仕舞いながら空を見上げる。  雲一つない青空に太陽が浮かび、一日の始まりを告げていた。  あたしの名前は――  九十九 千里(つくも せんり)  この春から神明学園高等部に通っている。  訳あって両親とは暮らさず、母方の祖母の家に住んでいるんだ。  でも、これはあたし自身が望んだこと……。  そう……あたしが望んだんだ。 「おはよぉございます、千里」  視線を空から正面に戻すと、幼なじみの光が立っていた。 「おはよぉ光っ! 毎日迎えに来てくれなくてもいいのに」  あたしは肩をポンっと叩きながら、凛と佇む彼女の横に並んだ。 「いつどこで何が起きるかわかりませんからね」  光は切れ長の目にかかるキレイな黒髪をなびかせながら心配性な一面をのぞかせる。  彼女の名前は――  五条 光(ごじょう ひかる)  あたしの幼なじみ。  彼女が敬語を使っていることに特別な意味は無い。  誰にでもそうなんだ……。  それは彼女の家系が極めて特殊であることに起因する。  代々、五条家は九十九財閥に仕える一族だ。  あたしが籍を置くその財閥は世界でもトップクラスの財力を誇り、政界をも牛耳っている。  五条家は命ある限り九十九財閥に尽くすことを誓った一族であり、それを糧に栄えたと言える。  それは年端もいかない子供であっても同様であり、その為、五条家に生まれた者は奉仕精神を幼少期から徹底的に叩き込まれる。  物心ついた頃から五条家の長女である光は、九十九財閥の長女であり、時期当主のあたしの世話役だった。  あたしが財閥のトップに立った際には彼女が全面的に補佐をする…………ハズだった。  でも、あたしは『あの日』に九十九家から出ることを決めた。  本来、九十九家と縁を切り、次期当主の資格を失った私に仕える必要はないのだけど、本人たっての希望で世話役継続の運びとなったそうだ。 (後日、光の両親から聞いた)  現九十九家の当主であるあたしの父親もそのことについては了承しているらしい。  何か企んでるに違いない……。いつだってそうだ。  どんな手を使ったとしても、あたしは二度とあの一族と関わらないと決めたんだ。  あの色の無い大きな屋敷に住むあたしにとって、彼女がどれだけ救いであったか……光には感謝してもしきれない。
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