65人が本棚に入れています
本棚に追加
「行こっかぁ!」
心を覆う闇を振り払いながら光に笑顔を向ける。
彼女はあたしの笑顔に対してニコッと笑い返しながら、半歩程距離を置いて歩きだした。
光と共に学校へ向かって歩いていると、後ろの方から何事かを叫びながら猛スピードで走って来る小さな女の子がいる。
「千里ぃぃぃぃ!」
「うわっ!」
彼女は走ってきた勢いそのままに、あたしに体当たりしてきた。
およそ百五十センチ程度と思われる彼女の顔が、振り向きざまのあたしの胸に埋もれる。
あたしは膝を少しばかり曲げ、体当たりしてきた女の子の顔を覗き込んだ。
このおチビちゃんは……
結衣だっ!
「おはよぉ、結衣ぃ!」
体当たりのお返しとばかりに、小さな彼女をヌイグルミかの様に目いっぱい抱きしめながら朝の挨拶をする。
程よくプニプニしていて、抱き心地は最高だ。
「おっはよぉ、千里ぃ、光ぅ゛」
ゼーゼー言いながら、離せと言わんばかりに四肢をバタつかせている。
このマスコットキャラクター感がとても愛おしい。
彼女の名前は――
一之瀬 結衣(いちのせ ゆい)
私が中学一年生の時、家を出て間もなく、転校した中学校で出会った。
(光も一緒に転校した)
それ以来、あたし、光、結衣の三人で行動することが当たり前になった。
喜怒哀楽を偽りなく表現できる邪気の無い真っ直ぐなこの子が……あたしは大好きだ。
「さぁて、今日も張り切っていきますかぁ」
結衣が鞄をブンブン回しながら楽しそうにこちらを見る。
小さな彼女が学校指定の鞄を持つと、あたしが持つ鞄と同じ大きさとは思えないから不思議だ。
「結衣。あなたはいつも張り切りすぎなのですよ」
光がまったく表情を変えないまま、髪を耳にかけながら結衣を皮肉る。
それを聞いた結衣は、光を睨みながらすぐさま反撃に出た。
「うっさいなぁ! ウチから元気を取ったら何が残んだっつーの」
「…………そう言われれば何も残りませんね」
光は顎に手を当て、あたかも考えつかないような仕草をする。
「にゃ、にゃにおぉ……」
「言われちゃったねぇ、結衣」
二人のやり取りを第三者的視点から見つつ、いつもと変わらぬ朝の中、学校へと向かう。
最初のコメントを投稿しよう!