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「えー、であるからして、この構文は後ろから訳して……」
わずかに開かれた窓の隙間から、心地良い春の風が吹き抜ける。
聞こえてくるのは、そんな風の音と、黒板に当たり弾けるチョークの音、それに授業を行っている英語教師の声だ。
僕はノートと教科書を広げ、ただ静かに窓の外に広がる景色を眺めていた。
外では車や人が動いていて、誰もが着席しているこの教室内とは、まるで違う世界に思えた。
キーンコーンカーンコーン…
授業終了の合図に、チャイムが鳴り響く。
その音に教師は慌てて、残りの内容を軽くまとめてから、教室を後にした。
「はぁ~、終わった、終わった~」
「帰りどこ行くよー」
沈黙という忍耐の空間から、ようやく解放された学生達が各々の友達同士で喋り出す。
まだこの高校に入学して、一ヶ月と少ししか経っていないのに、人間の適応能力はすごいなと思わず感心してしまう。
というのも、入学した当初は休み時間でも教室内は馬鹿みたいに静かで、全員が全員初対面の人間しかいなかったのだ。
人見知りな生徒ばかりが集まってしまったのか、誰一人として声を荒げる者はいなかった。
もちろん、僕もそんなクラスの一員なのだが。
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