公園

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 ホームレスは音のしたほうへと歩み寄ると,視界には,砂場,滑り台,そしてうっすらと,物体が見えた。更に近付いている際に,彼はその物体の見える場所にブランコがあるだろうと,自らの記憶から呼び覚ました。  ブランコが見える… しかし誰かが乗っている。ホームレスは音のしていた正体を,このブランコが軋む音だと確信した。雨が降りしきる深夜のブランコに,人が乗っている事を不思議に思った彼であったが,止まっているブランコに乗っている人をよく見ると全裸の女性が左右の鎖を握り俯いている。黒髪は長く,垂れ幕の様に女性の足元の地面に届き,ホームレスは驚き身構え凝視した。 彼は少し膝をガクガクとさせながら,歯切れ悪く若干だが甲高い音声を脅えとともに披露してくれた。    ホームレス「お,おい! あんたは何をしてるんだ? こんな真夜中に裸でブランコなんかに乗って…」    女性は俯いたまま,ホームレスの問い掛けで変化を見せる様子は無かった。彼が,無言で鎖を握りしめている女性の手元をよく見ると,手首と鎖が紐の様なもので結ばれているのに気付き,彼は目を細め当惑した。彼は女性の左手側に回り込むと,垂れ幕の様に長い髪の横から,女性の顔を覗きこんだ。斜め下45度に向いたその顔の表情は,薄気味悪い笑顔を浮かべながらも美しかった。瞼は開いており,その瞳を見た彼が蠱惑的なその一瞬に唇を緩ましたと同時に,全身が寒気立ち,自分自身が尋常では無い状況である事を漸く認識した。    ホームレス「お,おい! 生きてるのか? おぅ?」    全身に痙攣が走り,それを振り払う様に彼の身体はすくむが,恐怖感にたじろぐとも彼は勇気を振り絞って女性の肩を押した…    ホームレス「あ,あぁ,き,きっと死んでるのだ!」    23台目の車を,彼は気付かなかった…
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