橋本

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橋本

 署に着いた橋本は車のエンジンを切り,フロントガラスで中途半端な位置に止まったワイパーを見ながら,朧げな過去を想起していた。手を伸ばしてフロントガラスの反対側にあるワイパーをガラス越しに指先でなぞりながら,じっとそれを見つめている。彼女は運転席の窓を叩く音に,しばらくして気付いた。  車外では傘を差している男性が強風にあおられながら,微動だに立っている。視線は橋本を見据え,真面目そうな表情であった。橋本はキーを抜き,車を降りた。    高橋「橋本さん待って下さい,濡れてますよ。ちょっと…」    橋本は傘を差さずに,署の入口目指して歩いた。橋本に語りかけた男は高橋といい,同僚である。彼は,ポケットに手を入れ俯きながら歩いている橋本に,急いで近付きまた口を開いた。    高橋「宮城さんが橋本さん呼べって。そんでベル鳴らしました。なんでも市民会館近くの公園で,変死体だそーです。当分眠れそーに無いですね…」    橋本は急に足を止めると,振り返り高橋を睨みつけた。    高橋「いや,なんていうか濡れてますよ橋本刑事…」    橋本は振り返り署を見据えながら再び歩きだし,署内に入った。
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