賽は酷にも投げられる -story one- -story start-

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死の砂漠…… それはこの国"ログナス"の北西にある砂漠で、リッパーという魔物達の住み処、そして砂漠は急激な温度変化で身体と精神を削いでいく。 その地獄は絶対の死を与えるに相応しい場所である。 私が何をしたというのか……リッパーからアルク様を守って死線を渡りかけただけなのに、と少女の疑問は頭の中で縦横無尽に廻る。 リッパーとはこの世界の魔物、根元不明で正体不明である。 ただ刃物のような鋭い爪で人を斬っては、その返り血で生きていることだけがわかっていた。 そうして……死の砂漠への追放が執行されようとしていた。 追放期間はない。それは戻ってくるはずがない者に期間など意味がないからである。 つまり私は死ぬのだ。 そんな私は足を止める。腕を掴まれて止められたのに気づいてはいる。しかし、顔は見ないで背を向け続けていた。 少女の細い腕を掴んだのはアルク・ログナート皇子、何か言いたげな顔立ちなのだがなぜか言葉が出ない。 思いきって少女から口が開く。 「放してください。皇子」 少女は少年を見ず背を向けたまま言った。その言葉に周りは騒然とする。 普通ならば無礼至極の行動で牢獄行きだろう。しかし、もはや死刑である私をわざわざ牢獄に入れるなどしないのだ。 「絶対に戻ってこいよ。フィミ」 皇子である少年が発した言葉は重く、尚且周りに驚愕と嘲笑いを起こした。 胸が痛いのを少女は感じていた。 できることならずっと仕えていたかった。と…… 「それはなんですか?願望なら―――」 「命令だ」 短く言い返された言葉に少女の顔は紅潮する。そして少年は少女の腕を放した。 ――この時、アルクは15、フィミ12であった。
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