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黒い砂、闇色の空、散乱する人の死骸、太陽だけが白く悠々と輝く世界。
そんな現実味のない死の世界が私の前に広がっていた。
風で黒い砂が巻き上がり、辺りを完全に黒く染めている。
持ち物は水と食料、赤色の魔剣だけである。
水と食料はともかく、魔剣まで渡してきた国王に疑問であった。
何度かこの追放死刑執行を見てきたが、魔剣などという貴重な物を渡すなど考えられない。
そんな疑問を内に秘めながらも、私は何もない闇の荒野を歩く。
行き先がどの方向かなど見当もつかない。ここが改めて死刑を担う場だと再認識する。
とにかく南を目指す。
コンパスがない今、南東を目指すのは困難そのものである。
だから太陽を利用した方角をとるしかないのだ。
「南は……」
「うわぁぁあ」
突然の叫び声に身体が咄嗟に振り向く。が誰もいない。
気のせいかとまで思うくらい辺りは静かだった。
大体こんな砂漠に私以外の人間がいるはずないのだ。
そう、いないはず――
「ッう……」
突然の痛みに息が詰まる。背中に感じた痛みは外的によって起こされたということを認知するのは、そこまで困難ではなかった。
必死に後ろにいる何かから逃亡し続ける。しかし、黒煙とも呼べる黒い砂煙の中で私が確認されたのだから、結果的に逃げ切れるはずがないのも確かだった。
逃げる兎を追い回すように、追い込んでくる影だけが黒煙の中でもわかった。
それは異様で異質、人ではないのに人の形を象った魔物、その正体はシルエットだけでも把握できた。
「こんなところで……」
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