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「――――死ねえぇぇぇぇぇ!!」
有り得ない台詞を聞きながら、まるで鳩尾<みぞおち>に膝を叩きつけられたような痛みに悶え、強制的に俺の意識は目覚めさせられた。
最悪な目覚めを果たした俺の目の前には、存在感タップリの美少女が立っている。
学生の夏服に身を包み、白黒リボンで結わいた腰まで届くツインテールを揺らし、少しだけ呆れた表情を浮かべつつ、両腕を胸の前で組み、ふんぞり返るようにベッドの前に立っていた。つまり仁王立ちだ。
残念なことに、これは先ほどの続きではないし、夢でもない。
この女は知っている。
何より、夢ならこんなに鳩尾が痛いはずがない。
「この文華<ふみか>様が起こしに来てあげたってのに、まぁだ寝てるの? 呆れた」
窓から燦々と降り注ぐ陽光で煌めく、少し白い金髪を、まるで払うような仕草で左手で軽く撫でつけている。
煌めく髪が眩しく、本来ならその美しさに目を奪われそうになるのだが、今はそんな気が微塵も起きない。
何故ならこの女の淡い赤の双眸は、痛みで悶絶している俺の姿が寝ているように見えるらしい。
勿論、分かっていて言ってるのだろう。
「どう見ても悶絶してただろ!? テメェ、俺に何しやがったッ!!」
「別に。 お腹に刺激を与えて優しく起こしてあげただけよ?」
「痛いんですけど!?」
「目が覚めて丁度良いじゃない」
悪びれも無く、そんなことを言い切る。
「ほら、早く着替えなさい。 遅刻するわよ? アンタの所為であたしまで遅刻したら死んで詫び入れてもらうから」
「それって酷くないか!? そもそも、一人で先に行けば良いだけの話しだろ!」
「あ~もう! うるさい五月蝿い!! 早くしないとまた膝を鳩尾に埋めるわよ!?」
やはりと言うべきか、鳩尾の痛みの原因を犯人は自白。隠す気もさらさら無く、あっさりと。
そんな犯人こと文華は、まるで幼い子供のように、少しだけ頬をムッと膨らませている。
その仕草に少し苛立ちを覚えるが、時計を見ると時刻は八時前。確かにこのままでは遅刻してしまうかもしれん。
仕方なく、渋々と登校準備を済ませ、文華と共に家を出た。
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