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教室に入ると、朝の挨拶が津波のように押し寄せてくる。
しかし悲しいことに、向けられる挨拶は全て俺に向けられた挨拶じゃない。
向けられている相手は俺の隣にいる文華だ。
学園のアイドルだけあって、男女問わずに人気者だった。
文華もみんなに挨拶をしながら自分の机に向かって行く。
一人淋しく取り残された俺はいつものこととして自分の机に向かうのだった。
自分の机に辿り着くと、「あーくん。おはよう~」と、ニコニコしながら俺に挨拶をしに来る女子がいた。
「おう、淺野か。おはよう」
彼女の名は淺野翔子〈あさの しょうこ〉。
小学校からの付き合いで、その時からノホホンとした性格だ。
肩まで届く茶色のモコモコヘアーは、自前の癖っ毛を隠すのに大きく貢献しており、それとこだわりなのか、右側の揉み上げを三つ編みにしている。
「ふーちゃんは今日も人気者だね~」
「学園のアイドル様だからな」
クラスメイトに囲まれている文華はまるで、下僕を従える女王様に見えた。
すると、腕を組みながらやれやれといった表情でこっちに来る変態――体格のゴツい男子生徒がいた。
「全く、あんな風に取り囲んでは文華様の休まる時間がないではないか」
「あれ? 霧彦、いつも文華の取り巻きやってんのに何でここに?」
「馬鹿者。俺をあんな連中と一緒にするな!」
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