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智美は、デジカメの画像を見ながら優しく微笑んだ。
そして、愛し気に画像を撫で呟く。
「俊君……。」
ここ一月程、智美の日課になっている行為だ。
智美は、時間が空けば何時間でもそうしてデジカメを眺めている。
時に微笑み、時に悔しげに、後悔に顔を歪めながら、大粒の涙を流しながら、飽きる事なく眺めているのだ。
智美の持つデジカメには1枚の写真しか入っていない。
ここ数ヶ月は、その1枚しか撮っていないからだ。
智美自身が、写真を撮る心境になれなかったのかもしれない。
元々智美は、写真を撮るのが好きで、何処に行くにもデジカメを持ち歩いている。
普段なら、撮った写真は直ぐに現像に出している。
しかし、この写真だけは未だに現像に出していない。
(もし、データ毎消去されてしまったら…)
そう思うと、どうしてもカメラ屋に足が向かないのだ。
だから智美は、毎日毎日その画像を見る為だけにデジカメを起動させている。
彼…北条俊之の姿を見る為だけに。
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