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「あっ、タクミさんまた・・・」
「ほんとだ、そっとしときますか?」
「そうしよう。出番になったら自然と起きるし」
「ある意味特技ですよね」
「自分の演奏場面になったら起きるとか、すごすぎでしょ」
「体に染みついちゃってるんですかね」
「だろうね」
後輩たちがこそこそと言葉を交わし、ちらちらと視線を送る。
その先には今まさに話題に上っているタクミがいた。
タクミは腕を組み足を組み、いかにも偉そうな姿勢で座ってると思いきや、その瞼を完全に閉じて眠っている。
ちなみに今は合奏中だ。
学生指揮者が奏者の前に立ち、懸命に指揮棒を振るう中、タクミは安らかという表現がぴったりなほどに夢の世界に旅立っていた。
一度や二度ではない、少し長い休みがあればいつのまにか眠っている。
しかも驚くことに、自分が演奏を始める数小節前にはおもむろに瞳を開き、何事もなかったかのようにトランペットを構えるのだった。
同期は慣れっこだが、その特技を知らない後輩たちは当初はらはらしっぱなしだったという。
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