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「あと8小節ですね」
「たぶんあと2小節以内に起きると思うよ」
「あ。起きた」
「ほらね」
「未だに慣れませんよ俺は」
「私は慣れた」
合奏中に眠りこけることはしばしばだが、本番中は絶対に眠らないのが素晴らしいと同時に不可思議だ。
ただし、本人談ではたまにうとうとするときがあるらしい。
「なんだよ、人の顔じろじろ見て」
タクミの演奏小節終了後、珍しいものでも見る顔つきで後輩たちがタクミを眺める。
普段のものとは明らかに異質なまなざしに、タクミも少々戸惑い気味だ。
「吹く直前に目覚めるなんて、おもしろいなーって思って」
正直に口にすると、タクミは唇をへの字に曲げて苦い顔をした。
「いきなり人のことおもしろいってなんだよ」
ほんとのことですもん、と笑うサキにいよいよ眉根を寄せ始めたタクミを、エイジがなだめてその場は収まった。
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