第二章 Eisen und Schnee

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「・・・以上が、北方の戦役での見聞で御座います」 キルフェヒルト・ヴォルフラム・フォン・ローゼンベルクは、皇帝を筆頭とする晩餐会の列席者に戦場での見聞を語り終えると、傍らのグラスを取って渇ききった喉を潤した。  「有難う、ヴュステンフォルト公。我が兵士らは困難に抗い、よくぞ戦ってくれたものだね。本当に、よくぞ戦ってくれた」 拍手を以て若い公爵の労をねぎらった皇帝は柔らかな微笑を浮かべつつ、感慨深げに頷く。  閣僚の主座を占める帝国宰相ルイトポルト・フォン・ベルリヒンゲン及び大蔵卿ヨアヒム・シュトラウス、農林務卿の名代、農林務大輔(のうりんむだゆう)ヴィリバルト・ディースカウらもキルフェヒルトの物語に傾聴し沈思していた。 戦争を利権拡大に利用する彼ら新興ブルジョアジーも、兵士らの刻苦に想いを馳せると今この時ばかりは心を曇らせずにはいられなかったのである。  ※農林務卿:ヴェルディア帝国の省庁、農林務省の長官。親任官。皇帝が直接任命する閣僚である。  長官に次ぐポストは官僚の主席である大輔。ヴェルディア帝国の本省官僚には大輔・少輔(しょうゆう)・大丞(だいじょう)・少丞・大属(だいさかん)・少属の六等の職階がある。  次官および次官補を指す職階が〝大輔(だゆう)〟である。この職階システムに一等官~十二等官の等級を相応させ官僚の身分を規定している。 ヴィリバルト・ディースカウの場合、第三等官・農林務大輔である。 (ちなみに前職は第四等官・農林務少輔であり、少輔の職階にある官吏をもって任じる林野総局長の職にあった)
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