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キルフェヒルトは官職こそ第五等官陸軍少佐に過ぎないものの、ヴュステンフォルト公爵家の家格は帝国貴族随一であり、その家長としての発言は現役の閣僚でさえも一笑に付す事は出来ない。
家格の持つ政治力を自負し、その利用価値を熟知している点に於いてキルフェヒルトは甚だ厄介な存在である。
「まさか。頭痛が堪えきれんだけだ」
果たして、エリザベートの懸念は杞憂に終わった。キルフェヒルトは怒りに駆られるどころか、頭痛に苛まれて仕方がないのだという。
流石のヴュステンフォルト公爵といえども、鷸蚌の争いに汲々とする帝国宰相と皇帝の近臣どもの俗悪ぶりを眼にするのに疲れ切ってしまったとみえる。
「空気が淀んでいるからな。仕方ないさ」
エリザベートは密かに安堵の息をつくと、由ありげに唇の端を吊り上げる。
「ああ、確かにな。
・・・それに、眠い」
エリザベートの皮肉に興を催したキルフェヒルトも、由ありげに眉を動かして応じてみせた。
「同感だ。
私も眠くて堪らん」
二人の若き貴人は、気怠い温気の中で延々と続く夜会に早くも倦み、揃って欠伸を噛み潰した。
第二章・了
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