Zwischenspiel 1

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聖王暦一八九八年五月。 五年前の革命で退位したヴェルディア皇帝エルンスト一世(この頃はエルンスト・アレクサンドル・フォン・ホーエンシュタウフェンの名で呼ばれる事が多いが) が全ヴェルディア人民の信任と推戴で再び帝冠を戴く事と相成り、新政府は多忙の極みにあった。  エルンスト一世の戴冠と、その子息フリードリヒ親王の立太子、宮内省の再興、そして上院議員の参集など帝政再開にあたって為すべき課題は山積し、官吏らは昼夜の別なく慌ただしく庁内を駆け回っている。  そんな中にあって、旧宮内省西御文庫の整理にあたっていた二人の雑吏は、四方山話に花を咲かせながら悠長に仕事を進める。  革命前に宮内省の雑吏である第十二等官・宮内司掌(くないししょう/ホーフ・ディーネル)として任用された彼らであったが、彼らの如き軽輩に省の枢機に与る事が許される筈もなく、廃棄書類と雑多な図書の整理といった雑事が宛われるのみであった。  二人の下級官吏のうち、初老の小太り男-ヨーゼフ・ブリュッケは、息子ほど歳の離れた同僚-フランツ・ミュラーの痩せた背中を顧みて訪ねる。 「そういえば、フランツ君。 帝政再開にあたって陛下の重臣がたも上院議員として帰っていらっしゃる様だけれど、やはり〝あの元帥閣下〟だけは帰ってこられないのだろう?」 「ああ、ヴュステンフォルト公爵閣下ですね。無理でしょう。元帥にして帝国宰相を兼ね強権を振るった御方ですし。 ・・・新政府に処刑されなかっただけでも御の字ですからねぇ」 親程も歳が離れた、うだつの上がらない至って人の良い同僚に、フランツは丁重に説明を加える。フランツは田舎出の無学な青年だったが、好学であり、政治や経済について一通り論ずる事が出来たのである。 「処刑どころか、オイレンブルク監獄の西塔に誂えた特別室に一年幽閉されただけで、後は領地へ帰っていったものねぇ。どうして、国政を牛耳っていた閣下がお咎め無しで済んだのだろう?」 「それは、処刑人の頭領のイザヴェラ・フォン・フランネル男爵らの嘆願があったからでしょう。ヴュステンフォルト公爵家とは行儀見習い以来のお付き合いと言いますから。 無血革命の陰の立役者は、やはり男爵閣下でしょうね」 頼もしいフランツ青年に甘えて根掘り葉堀り質問を重ねるブリュッケに苦笑しつつ、フランツは矢張り丁寧な説明を以て応えた。
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