第三章 Nach dem Gelage ~宴のあと~

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キルフェヒルトの母、ジークリンデ・マリア・フォン・ローゼンベルクは高級娼婦から先代ヴュステンフォルト公爵の正妻の座を射止めた女である。 貴族や豪商連を客とする高級娼婦の具える教養は一般人の水準を遥かに上回り、知識階級と機知に富んだ会話を愉しむ事も、大臣や高官と政治経済を論ずる事も出来たのであるが、こうした高級娼婦を母に持つ貴顕には枚挙に暇が無い。 しかし、先代ヴュステンフォルト公グスタフ・アドルフの如き宮廷の第一人者が高級娼婦を正妻に迎えて化粧領を分与した事は流石に社交界の人々を驚愕せしめずにはおかなかった。 ジークリンデは社交界に渦巻く敵意と果敢に戦い抜き、ついには社交界の女王として君臨するに至った女傑である。  鈴を転がす様な声音で経世済民を論じ、甘ったるい猫撫で声で諸々の有職故実を披瀝し宮中儀礼の差配をしてみせる母には、帝国軍随一の勇将に成長したキルフェヒルトも一向に敵わぬ。
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