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宮殿を出立したローゼンベルク家とメルゼブルク家の馬車はそのままローゼンベルク邸へと向かい、二人の若君は華やかな大礼服の肩で風を切り、揚々とエントランスへと足を踏み入れた。
『お帰りなさいませ、旦那様』
整然と並んだ下男や女中らが数ヶ月ぶりの主の帰宅を寿ぎ、キルフェヒルトも常の無表情を保ったままではあるものの、満足げに頷いて、それに応える。
「母上、只今帰りました」
均整の取れた中背を引き締め、凛とした声音と共にキルフェヒルトは母に武官式の敬礼を施す。
「お帰りなさい、キルフェヒルト。貴方の活躍は宮中でも語り種になっていましたよ。よく帰ってきてくれました。
あら、エリザベートちゃん!よく来てくれましたね。シュタイエンマルク公叙爵本当におめでとう。それにしても、益々綺麗になって。軍人さんにしておくのが勿体ないわ。ヨーゼファ内親王殿下の女官長なんて興味はなくて?」
息子と、その幼なじみの帰還を歓喜と共に迎えたジークリンデは、鼻にかかった甘い声で矢継ぎ早に二人を称賛し、労い、そして、もみくちゃにした。
ジークリンデは年齢を感じさせぬ幼い顔立ちをした小柄な女性で、遠目から見ればさながらキルフェヒルトやエリザベートの妹の如く感ぜられる程であった。
艶やかな黒髪には白髪一本見当たらず、容色の翳りを厚化粧で取り繕ってこそいるものの、あどけない娘盛りの頃の美しさは現在もなお燦然とした輝きを留めていた。
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