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ドシャアァー……と、ナイアガラの滝よろしく、バスタブから湯をあふれさせて俺は湯に入る。
「いい湯だねぇ……」
今の湯の温度は三十八度六分、実に俺好みの温度だ。父さんが一番風呂ゲットして爺ちゃんが二番風呂ゲットして、妹が一回お湯を入れ直し入った後に俺が入ると丁度この温度になる。
ま、つまりは妹の後に俺が入ればこの温度なわけで、父さんや爺ちゃんの後では味わえない至極の湯なのだ。
俺の体の成長にこのバスタブの広さが日に日に合わなくなっているのが少し気になる所だが……しかし、ここは俺が一番好きな場所であり、一番リラックスできる場所。今日もまた、一日の疲れを癒すために湯に二十分ほどつかっている予定だった。だったのだが……。
「……おかしいな。少し熱いぞこの湯」
バカな、ちゃんと妹が風呂からあがって6分きっかりに入ったんだぞ。……俺がタイミングを計り間違える等ありえん。しかし、妹の風呂に入っていた時間はいつもと変わらなかったはず……なぜだ?
湯を入れ直した様子もない。しかし妹がいつもと湯温を変えて入れるとは考えにくい。と、なれば……。
「なんか詰まってるのか?」
コツコツ、と俺は風呂に湯を入れる蛇口の元を叩く。実は、前にも似たような事があって、その時はお湯の流れてくる管に異物が詰まってて、それのせいでお湯の量が少なくてぬるくなっていた。だから今回はその逆で水の管に何か詰まったんだろう。
だからそう思った俺は、コツコツとまた叩く。
「入ってますよ~」
……!? え? 今のはなんだ? 声が……聞こえた? 俺は焦ってバスタブで立ち上がる。……あぁ、いきなり風呂から体を出すとさみぃ……。
「あの~、すみませんが。水の蛇口を捻ってもらえませんか?」
そしてまた聞こえたよ……。よくは分からないが、捻れと言われて捻らないのも酷く背徳的な気がするので捻っとこう。丁度風呂の温度に文句があったとこだし。
キュッ、キュッ、キュッ。蛇口を捻るとチョロチョロと水が流れ出してきた。やっぱ詰まってたんだな……そんな事を呑気に考えて蛇口を更に捻る。しかし、それが間違いであった事をすぐに思い知ることになる。
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